『墨彩』収録の進出『守護国界章』断片と関連断片群について

 今年十月に新古美術の「わたなべ」から刊行された『墨彩』(39号27頁)に、「伝日蓮聖人 四行書断簡」が掲載されている。「伝日蓮聖人」とあるが、まごうことなき日蓮の真筆である。裏に身延山久遠寺十七世日新(1535~92)の「御真蹟四行授與之帝都本阿弥光徳 天正十八歳在庚寅六月日 日新(花押)」との授与書があり、本阿弥光悦(1558~1637)の姉が嫁いだ本阿弥宗家の本阿弥光徳に授与されたものであることがわかる。表真蹟左右の表装部分に「日蓮大菩薩」「不可思議」とあり、不可思議とは深草元政(1623~68)の通称であるから、その後元政が日蓮真蹟たることを極めている。

 ではその四行断片と日新の裏面授与書きを『墨彩』から転載させていただく。

『墨彩』掲載『守護国家論』四行断片」
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「裏面の日新の授与書」
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 内容は「‥‥涅槃。声聞縁覚。八万劫。六万劫。四万劫。二/万劫。一万劫所住。名為涅槃。無上法王。聖/主住処。名大涅槃。二乗諸果。経爾所/時(将〈時イ〉)。入彼無余涅槃(後)。回心向大。便引楞伽‥‥」というもので、これは伝教の『守護国界章』(『大正蔵』74・217・a)の一文である。

 ところで『守護国界章』の要文断片は、『日蓮聖人真蹟集成』(以下『真蹟集成』第5巻171頁)に四点が収録されている。

 さらに『真蹟集成』に未収録の断片が、『日蓮教学研究所紀要』(第3号巻頭写真)に紹介された東京都安立寺蔵の三行断片、また写真紹介はできないが、日蓮教学研究所に写真が架蔵される東京都若松寺信徒(不受不施派)所蔵二行断片、立正安国会に写真が架蔵される長崎県妙蓮寺所蔵二行断片、大分県法心寺所蔵の二行断片が確認され、以下に示すようにこれらはいずれも、『大正新脩大蔵経』74巻217頁上中下段、218頁上段に集中し、かつ字体や字取り行取りも共通し、本来同一要文の断片と判断されるのである。

 そして今回『墨彩』に掲載された要文も、まさに右要文群の冒頭に位置し、また字体や字取り行取りが共通しており、一連の断片群の一つと想定されるのである。

 ではまず各断片の位置を以下に示そう。これらは『守護国界章』巻下之上の「弾麁食者謬破定性二乗入無余後回心章第二」の文である。

 波線部分(1)から(4)までが『真蹟集成』収録分であり、棒線部分①から④までが『真蹟集成』未収録分であり、二重線部分が今回『墨彩』に掲載された断片部分である。

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一、『日蓮聖人真蹟集成』所収分(波線部分)の所蔵と図版は以下である。なお(1)等の番号は『真蹟集成』収録番号である。

(1)東京都稲田海素氏蔵、二行。「同於法数。‥‥不得永滅」(『大正蔵』74・217・b・20)

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(2)山梨県本遠寺蔵、六行。「真実也。但是如来方便之力。‥‥云何永住。又麁食者」(『大正蔵』74・217・c・12)

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(3)鳥取県北尾日大氏蔵、一行。「者。二乗入無余涅槃。不得一向非衆生」(『大正蔵』74・217・b・25)

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(4)京都府妙伝寺蔵、三行。「麁食者。‥‥求仏智恵。汝今」(『大正蔵』74・217・c・2)

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二、『日蓮聖人真蹟集成』未収録分(棒線部分)の所蔵と内容は以下である。

①東京都若松寺信徒(不受不施派)所蔵二行。「食云今謂不爾‥‥求入無余而説。不説」(『大正蔵』74・217・b・7)。日蓮教学研究所架蔵写真。

②東京都安立寺蔵、三行。「涅槃。生実滅度想。‥‥涅槃。然引導令」(『大正蔵』74・217・a・11)。写真『日蓮教学研究所紀要』3号巻頭に掲載。裏に身延山久遠寺十七世日新の「御真筆三行授與之松村与三左衛門尉延尚 天正十八庚寅曆六月吉辰 日新(花押)」との授与書がある。

「『日蓮教学研究所紀要』3号巻頭から転載」
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③長崎県妙蓮寺蔵、二行。「有導師故明臨滅‥‥応入□□□□耶又瑜伽」(『大正蔵』74・217・c・21)。立正安国会架蔵写真

④大分県大分市鶴崎法心寺蔵、二行。「入滅趣寂。‥‥応化声聞耶。」(『大正蔵』74・218・a・1)。立正安国会架蔵写真

三、『墨彩』収録分(二重線部分)。「涅槃。声聞縁覚。‥‥回心向大。便引楞伽」(『大正蔵』74・217・a・1)

 以上が今回『墨彩』収録分の進出断片を含む、現在確認される『守護国界章』の同一真蹟要文断片群であるが、ことに『墨彩』収録分と『日蓮教学研究所紀要』収録の断片は、その裏に記される日新の授与書から日新が所持していたことが判明し、今後他の断片の裏も調査確認が必要である。

 本断片群は少なくとも1500年代なかば日新時代以前に断片化していることがわかり、各地に分散していることから、今後も新発見される可能性がある。

 それにしても『墨彩』の四行断片の値段表を見て驚いた。「850万円」。少し前まで一行100万円位だったと思うが、どこまで上がるのか。進出自体は嬉しいのだが複雑な気持ちである。

 なお『真蹟集成』(5巻201頁)には、身延山久遠寺に所蔵される『守護国界章』の一紙断簡が収録されている。

「身延山久遠寺蔵『守護国界章』一紙断簡」
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 しかしこれは、字体が上記断簡群に比して整っており、またその内容が『守護国界章』中之中「助照如来使所伝経体章第七」(『大正蔵』74・191・a)の文言でかなり離れており、さらに冒頭に「守護章中中云」と表題され、また終行下部が余白で文章も終わっていることから、一紙の独立した要文であると思われ、これら断片群とは別の要文と推定する。(山上)

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